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「大手電力会社1兆円の黒字」のからくり

― 電気料金の基礎を知ろう ―


国際環境経済研究所理事・主席研究員

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(「」より転載:2023年10月号 vol.59 No.10)

 食品やガソリンなど生活必需品の物価上昇が続き、電気料金にも大きな関心が寄せられている。電気は、生活・経済にとって死活的に重要な財であり、料金上昇は特に弱者に大きな影響を与える。電気料金の変動に関心が高いのは当然だが、原価の構造や既に自由化されていることも十分に理解されておらず、メディアの報道も正確ではないものが多い。
 本稿では、消費者からは見えづらい電気料金について、基礎的な点も含めて整理したい。

電気料金は上昇していたのか

 しばしばメディアでは「電気料金が上がり続けている」と報じられている。しかし本当に電気料金は上昇を続けていたのだろうか。
 近年のエネルギー価格高騰を受け、政府は、2023年1月使用分から「激変緩和措置」として、家庭用の電気料金1kWhあたりにつき7円の補助を行った。それを反映させた消費者の負担する電気料金の推移が図1である。2023年1月から下落していることがお分かりいただけるだろう。激変緩和措置の影響を除いた図2でも、2022年と比較するとむしろ価格は低下している。それも道理で、2021年秋から燃料価格は上昇していたが、液化天然ガス(以下、LNG)は、2022年9月、石炭も、2022年11月にピークを打ち、以降は下落を続けている。福島原子力事故前の2010年との比較であれば確かに電気料金は上昇しているが(原子力発電所の停止による火力発電の依存度上昇や再エネ発電賦課金の増加による)、昨年からの物価高騰の主因であるような報道は、データを踏まえずにイメージが先行したものだと言わざるを得ない。

図1 東京エリアでの家庭用電気料金推移(激変緩和措置反映分)
(出典:東京電力エナジーパートナー資料等より作成)

 しかし一旦始めた補助を打ち切る政治的ハードルは高い。令和4年度の補正予算として3兆1,074億円が措置され、本年9月使用分(10月請求分)までこの激変緩和措置による補助が行われることとなっていたが、12月まで延長されることとなった。

図2 東京エリアの家庭用電気料金推移(激変緩和措置の影響を除く)
(出典:東京電力エナジーパートナー資料等より作成)

 2021年秋ごろからの燃料価格上昇に加えて、2022年春のウクライナ危機によりいわば「第3次オイルショック」が起きたわけであり、激変緩和措置の意義を全く否定するわけではない。しかし、1970年代のオイルショックを契機としてわが国は大幅な省エネに成功したことからも明らかなように、価格高騰は省エネを進める好機でもある。また、わが国はCO2削減を進めるためにカーボンプライシングの導入を議論しており、この補助金はまさに真逆の政策であることは指摘しておきたい。そもそも1970年代前半のオイルショックでも経験したように、供給要因からくるインフレは、その根本要因を取り除かなければ、深刻なスタグフレーションを招きかねない。

電気料金の仕組み

 イメージ先行の報道が多くなる背景には、電気料金の分かりづらさがあるのかもしれない。支払方法を口座引き落としやカード払いにしていて、検針票を詳細にチェックすることは無く、言われるがままに払わされているという感覚を持つ消費者も多いだろう。そこで、電気料金の構造を明らかにしていきたい。既に電力自由化されており、各社さまざまなメニューを提供しているが、ここでは、東京電力が電力自由化後の経過措置として政府の規制の下で提供している、家庭用電気料金を例に整理する。
 図3に、消費者が負担する毎月の電気料金の構造を示す。なお、余談ではあるが毎月検針を行って電気料金の精算を行うことが日本では一般的だが、海外に行けばそうではない。

図3 電気料金の構造
(出典:経済産業省)

 さて、料金は大きく3つの要素で構成されている。基本料金は契約容量、すなわちどれだけの電気を一度に使うことができるかによって異なり(図4)、この金額は毎月変動することは無い。
 続いて、電気料金の本体である電力量料金について説明する。しかし本体と言っても大きく2つに分かれる。電力量料金単価と燃料費調整単価だ。電力量料金単価は国が認可するもので、値下げであれば届出だけで良いが、値上げとなると電力・ガス取引監視等委員会による審査や公聴会等での説明を求められ、当初申請した値上げ幅よりも圧縮される。2023年6月1日以降の使用分から、大手電力会社7社の値上げが認められたが、実は北陸電力などは昭和55年4月以来、43年ぶりの値上げであった。

図4 東京電力の従量電灯Bの基本料金一覧
(出典:東京電力エナジーパートナー1)

 では値上げが認められた2023年6月より前に電気料金が上がっていたのはなぜなのか。それは燃料費調整単価の値上がりに拠るところが大きい。燃料費調整単価とは、いわば飛行機のサーチャージのようなものだ。原油やLNGなどの平均燃料価格を元に毎月算出される。
 規制される料金単価の変更は前述した通り、国の認可が必要とされ、手続きに時間がかかる。料金単価の認可を受ける際には、電源構成(電源構成によって必要とする化石燃料の「量」が想定される)、燃料単価や為替について、その時点での見通しに基づいて原価を算定し料金申請を行うが、燃料価格や為替の変動は激しく、また予想が難しい。
 日本の電源構成は、石炭・LNG・石油・その他火力で7割以上を占める。日本の電気料金を最も大きく左右するのは燃料費であり、そうした化石燃料のほとんどを輸入に頼るわが国では、国際市場での化石燃料価格や為替の変動の影響を大きく受ける。輸入燃料コストが下がったときにはそのメリットを迅速に消費者に還元し、上がったときには発電事業者が赤字になって経営が不安定化しないように、1996年に導入されたのが「燃料費調整制度」である。
 その化石燃料価格が、コロナ後の経済復興によるエネルギー需要の増加、ロシアのウクライナ侵攻などの国際情勢、急激な円安などにより急騰したのである。
 しかし燃料価格の変動を全てこの調整制度で転嫁できるわけではない。実は経過措置規制料金では燃料費調整単価には上限が設定されている。図1で2022年9月から年内いっぱいまで規制料金はずっと横ばいであるが、それは燃料費調整単価が上限に達してしまい、それ以上の値上げができなかったことによる。この間、化石燃料価格の高騰と円安により、大手電力会社にとっては燃料費を十分回収できず、『売れば売るほど赤字』という不健全な状態が続いていた。これは、自由化後に新規参入した新電力からみれば、大手電力会社が不当廉売を行っているような状況であり、歪んだ競争環境になっていた。原価回収は健全な企業経営の最初の一歩だが、大手電力と新電力の双方にとって、それができない状態に陥っていたのだ。大手電力会社の経営に対するインパクトは後で整理するが、電力会社の財務体質が悪化すれば、彼らの資金調達コストが上昇し、結果として電気料金を引き上げることになる。
 さて、もう一つの電気料金の要素が、再生可能エネルギー賦課金である。これは2012年に導入された「電気事業者による再生可能エネルギー電気の調達に関する特別措置法」(通称FIT法)によって定められているもので、太陽光や風力、地熱、小水力などの再生可能エネルギー発電に取り組む事業者を支援するコストだ。電気料金と併せて徴収されるので、大手電力会社に支払っていると思われがちだが、大手電力会社の料金徴収のシステムを政府が利用しているに過ぎない。この賦課金が年々上昇を続けていることはこれまでにも本誌の連載で複数回指摘している通りであり、その総額は年間2.7兆円程度にもなる。

電気の原価構造

 電気の原価はどのようになっているのだろうか。政府が2023年6月分から認可した規制料金の内訳が図5だ。前述した通り、規制料金の認可にあたって政府(電力・ガス取引監視等委員会)が査定を行うため、7社平均で、当初申請から7%程度圧縮された金額となっている。注目すべきは、内訳に占める燃料費の割合の大きさだ。

図5 大手電力会社7社による規制料金改定に向けた申請額と査定結果
(出典:経済産業省)

 JERAからの購入電力が主となる東京電力以外は想定される燃料費の内訳を明らかにしているが、総原価のほぼ5割以上が燃料費であり、最も比率の高い東北電力では7割近い(表1)。
 わが国は再生可能エネルギーの主力電源化を掲げているが、それにはまだ時間がかかる。原子力発電という燃料費がほぼかからない電源を停止させ、輸入燃料による火力発電依存になっている状況では、今後もわが国の電気料金は輸入燃料価格の動向に左右され続けることとなる。

表1 各社の総原価に対する燃料費比率
(出典:図5より筆者作成)

 そして、そもそもわが国の電力価格を大きく左右するのが燃料費なのであれば、電力価格を低下させるには、発電事業者の燃料調達の交渉力を向上させることが必要である。わが国は電力自由化により、発電分野に多数のプレーヤーの参入を促し、大手電力会社の市場支配力を払拭することを目指してきたが、資源国との交渉力を確保するには、大規模化と長期的な調達量の見通しを確保することが重要である。わが国の電力供給の安定性確保に向けても、燃料調達力の向上は極めて重要であり、そうした配慮がこれまでの電力自由化の議論において十分配慮されてこなかったことが、筆者が電力自由化の大幅な見直しが必要であると主張する一因である4)

自由化したのになぜ規制料金が残っているのか

 上述した通り、2016年にわが国は電力小売りの全面自由化に踏み切った。それにもかかわらず、なぜ今も大手電力会社は電気料金の値上げを政府に申請し、政府は査定を行って規制料金を認可するという作業が行われているのだろうか。自由化された市場では、自社の製品・サービスをいくらで売るかは企業の経営判断であるはずだ。
 実はわが国では、電力自由化後の「経過措置」として規制料金での供給義務を大手電力会社に残置している。これは、圧倒的な市場支配力を持つ大手電力会社による「規制無き独占」となることを防ぐための一時的な措置である。自由化した上で規制料金を維持することは競争を歪めるとして、わが国よりも先に電力自由化を進めた米国テキサス州や欧州諸国では、規制料金の撤廃が進められている5)
 わが国でも当初の予定では、規制料金の残置は2020年3月までとされており、2018年秋から19年春にかけて行われた「電気の経過措置に関する専門会合」に委員として参加した筆者は、経過措置は解除が原則であることなどを主張したが、解除は時期尚早であるとの結論に至った。
 こうした経緯によって、大手電力会社は、自由料金メニューも提供することができるが、規制料金メニューを提供する義務を今も負っている。図1において、本年6月、即ち規制料金の値上げが認可されるまで、自由料金が規制料金を上回る状況が続いていたことが示されているが、このような状況になれば、自由料金のみを提供する新電力と呼ばれる新規参入事業者に乗り換える消費者はほとんどいなくなる。多くの新電力が、規制料金の値上げ幅を大きくするよう求めていたのはこうした理由による。今の制度の下では、消費者が新電力を選択して一時的に安価な電力価格を享受したとしても、燃料・市場価格が上昇したらリスクなしで規制料金に戻ることができる。無償のコールオプションが与えられているわけだが、これは制度としてはあまりにいびつだと言わざるを得ない。しかし自由料金メニューで契約していた消費者が、電気料金の高騰にあえぐ事態も報道され、経過措置として残された規制料金メニューを廃止することはもはや当面困難であろう。
 日本は市場に任せるのか規制するのか、極めて中途半端な状態に陥っている。国民生活・経済に死活的な影響を与える電気料金が上昇すれば何らかの対策を打たねばならないと政治が考えるのは、当然と言えば当然だが、なにを競争原理に委ね、どこからは政府が関与するのか、制度設計の根本から考える必要がある。

問われる報道の正確性
「大手電力会社1兆円の黒字」のからくり

 燃料費調整単価や再エネ発電賦課金などによる電気料金負担の増加は、本来であれば「値上がり」と表現すべきものだが、電気料金については「値上げ」と表記され消費者の誤解を生むことが多い。
 特に、2023年9月をもって政府の激変緩和措置が縮小されることを受けて、大手電力会社が「値上げする」と報じられたことには、違和感を禁じ得ない。例えば共同通信は、8月17日配信のニュースで「大手電力10社全てが(中略)値上げする見通し」と、電力については「値上げ」という表現を使いながら、同じ記事中でガスについては「大手都市ガス4社のガス料金も全て値上がりする」と書き分けている2)。同日の産経新聞は「関電、10月電気料金値上げ17%高く」との見出しで同じニュースを報じている3)
 政府の補助により抑制されていた電気料金が、補助の縮小によって上昇することを「値上げ」と表現するのは日本語として不適切であり、メディアがこうしたささやかな不正確さによって、消費者が正確に問題を把握することを阻害しているのは極めて憂慮すべきことである。
 値上げすれば当然ではあるが、大手電力会社への風当たりは強くなる。2023年6月1日使用分からの電気料金値上げが認可された直後、電力大手8社の2024年3月期の連結最終損益見通しは、計9,405億円の黒字となる見通しであるとして、多くのメディアがこれを報じ、SNS上には、極めて強い言葉で大手電力会社を非難する書き込みが溢れた。値上げによって消費者の生活が苦しくなるなかで、大手電力会社が大儲けしているとなれば批判されるのも当然だ。しかし、これには大きな見落としがある。
 2022年の燃料価格高騰が、燃料費調整制度で認められている金額の上限を突破していたため、大手電力会社は規制料金では原価回収ができない状態に陥っていたことはすでに述べた。2022年は中部電力を除くすべての大手電力会社が赤字に陥っており、東北・北陸・中国・四国の4社は21年、22年と2年連続の赤字であった。
 2022年度通期(連結)の大手電力会社の赤字は合計で8,785億円にも上る。
 燃料費調整制度による収入と支出は、それぞれ発生のタイミングが異なり、3カ月間のタイムラグがある。そのため、長い目で見れば、収入と支出は一致する。しかし、規制料金に設定された上限によって、支出が収入を上回った分は電力会社がその損失を被っている。
 自己資本比率が10%程度に落ち込んでいる大手電力会社も4社ほどあり、再び燃料価格が高騰し、燃料費調整制度の上限を上回る事態になれば、持ちこたえられない会社も出るだろう。世間では、給食会社の倒産による影響に関心が集まっているが、適切な原価回収ができなければ倒産するのは、どのような業態であっても同じだ。その時に社会にどのようなインパクトがあるかを考えなければならない。なお、中部電力が2022年に1社だけ赤字に陥っていないのは、同社が前回規制料金を値上げしたタイミングが他社より遅く、その時にはだいぶ燃料費が上昇していたため、今回の高騰でも燃料費調整単価の上限に達した時期が極めて少なかったことが大きな一因である。
 こうした構図はほとんど報道されることは無いし、大手電力各社も政府も消費者にわかりやすく説明できているとも言い難い。さらに、電力会社の不祥事もあって不信感が高まっている。関係者、メディアには消費者に正確な理解を促すよう、努力を求めたい。電力政策に関する国民的議論は正確な現状把握があって初めて成り立つものだと筆者は考えている。本稿がその一助となれば幸いである。

【参考文献】
1)
東京電力エナジーパートナーウェブサイト「自由化前の料金プラン(ご家庭向け)」
2)
共同通信2023年8月17日配信「10月電気ガス料金、全社値上げ政府の価格抑制策が半減」
3)
産経新聞2023年8月17日配信「関電、10月電気料金値上げ17%高く」
4)
「電力自由化の再設計に向けた提言―各国研究者が提唱する『ハイブリッド市場』を踏まえて考える―」
//wushu-brest.com/2023/07/takeuchi20230720/
5)
『 未来のための電力自由化史』,西村陽・戸田直樹・穴山悌三,日本電気協会新聞部